1998年06月15日(月)
こんなに急いでいいのだろうか
田植えをする人々の上を
時速二百キロで通りすぎ
私には彼らの手が見えない
心を思いやる暇がない
(だから手にも心にも形容詞はつかない)
この速度は早すぎて間が抜けている
苦しみも怒りも不公平も絶望も
すべて流れてゆく風景
こんなに急いでいいのだろうか
私の体は速達小包
私の心は消印された切手
しかもなお間にあわない
急いでも急いでも間にあわない
(谷川俊太郎作『急ぐ』)