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考える言葉

 

強み

 
2003年06月16日(月)

 ピーター・F・ドラッカーには多くの経営的な名言が知られているが、その中の一つに「自らの“強み”を生かせ(Build on your strength)」という言葉がある。
 この言葉の背景には、「人間は十人十色、人それぞれに持ち味がある。弱みの克服に時間を費やすよりは、自らの強みに基礎をおいて仕事をしたほうが極めて生産的である」という意味合いがあるのだろう。
 これには、納得しつつも、けっこう異論がある。「弱みにつけ込まれたらどうするのか」、「弱みを克服しなければ成長できないのはないか」、「打撃は得意だけど、守備は下手。それでも無視して良いのか」、「顧客のニーズが自分の不得意の分野に変わりつつある。その場合はどうしたらよいのか」等など・・・・・。
 もっともな異論であるが、「自らの“強み”を生かせ」というドラッカーのそれとは次元が違うと思う。
 ドラッカーが言いたいのは、一つは、自らの強みを知らずにいること、あるいは知っていると勘違いしていることへの警告であろう。自分のことは自分で分からないのが人間である。にもかかわらず、人の忠告を素直に聞けないで自分を見失いがちである。師匠をもたない知識人が陥る罠である。
 それから、ドラッカーがいう“強み”とは、たんに身につけた知識や経験のことを言っているのではない。その人が持って生まれた資質や環境あるいは価値観などを含めた本質的な部分を言っていると考える。
 要するに、自分自身を正しく認識することの重要性を説いているのである。そのためには、フィードバック分析をして、真の強みとは何かを追求しつづけることが大切であると示唆している。
 “強み”だけにとどまらず、自分の合った仕事の仕方を見つけ出すこと、“強み”と自らの価値観との照合を怠ってはならないという。
 それから、もっとも大切なことは、自らの貢献は何であるべきかを考えることができなければ、自らの価値を知ることはできないだろう。
 さらに、自らの強みで成果を出すためには、共に働く人を理解しなければならない。何故ならば、一人で成果を出すことはできないからである。
 「共に働く人の強み、仕事の仕方、価値観を知らなければならない」と、ドラッカーはいう。これこそが、ネットワーク社会の要諦であろう。
 自分の真の“強み”を知るということは、他人の“強み”を知ることでもある。