本文へ移動

考える言葉

 

経営本

 
2003年07月28日(月)

 本屋さんの新刊コーナーや日経の新刊本の広告記事などを目にすると、いったいどれぐらいの本が一日に出版され、入れ替わっているのだろうかと、思ったりする。想像がつかないが、相当の数であろう。
 仕事柄、経営に関する本を読むことが多いが、最近は、現役の経営者が自らの経営に対する考え方や手法を語る内容の経営本が目立つ。そういえば、セミナーの講師を依頼され、しゃべる人も多い。
 出版の動機は様々だと思う。グローバル企業を率いているソニーの出井さんは、その立場上、社内外へのメッセージの手段として出版を決心したようであるが、出版社に乗せられてしまった人も多いのではなかろうか。
 学者と違って、経営者の場合は自らの実践論であるから歯切れもよく、読んでいて分かりやすくもあるが、仮説がしっかりとしておらず、結果論に終始している内容が多い。中には、出版してまもなく業績が悪化したというケースもあるそうだから、要注意である。
 経営の本質論(企業の理念・目的など)に触れている部分をみると、その経営者の人生観や哲学、思想、価値観などが分かるが、位相差(レベルの違い)がはっきりしてくるので面白い。物事の本質論の部分は、やはり学者や宗教家など物事を深く考える人の本のほうが矛盾もないし、参考になる。
 では、手法の方はどうかというと、読んだすぐには「なるほど!」と感心させられるが、個性的な人が多いので、うわっらだけを真似ても、継続できない。要するに、自分になじまないことは続かないのである。つまり、同じ結果は望めないのである。
 大体、自己の場における経験から感覚的に捉えたことなどを、そう簡単に分かりやすく文章に表現できるはずがないと思う。でも、大方、経営者が書いた本は読みやすい。それだけ、深みがないのではなかろうか。もちろん、全部が全部そうだと言うつもりはない。そんなわけで、一瞬の清涼剤的な効果は得られるが、それ以上の効果はあまり期待しないほうがよい。
 その点、しっかりとした学者や宗教家の書いた本の中には、難しいが、物事の本質を捉えた“知のモデル”が必ずある。しかも、その原理の根拠を解明している。
 経営者はそのような“知のモデル”をつかみとり、それを自分の内面に当てはめて、自らの経営を考えてみる必要があると思う。
 私にとっては、その意味において、「経営人間学講座」(事務所のホームページで紹介)は、経営本よりずっと価値がある、まさに“知のモデル”の宝庫である。