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考える言葉

 

寝そべり族

 
2021年07月26日(月)

 最近のことだと思うが、中国で「躺平族(タンピン)・“寝そべり族”」と呼ばれる人々の生き方が、共感を呼んでいるという。
 「タンピン」とは、「だらっと寝そべる」という意味らしい。今年春から流行り始めた言葉で、仕事や結婚、出産に積極的でなく、物欲が少ない若者たちを指すという。
 SNSに「私ものんびり泳ぐ魚のように生きたい」と書き込まれるなど共感が広がり、わずか数か月でほとんどの中国人が知る単語となったそうだ。
 高度経済成長が続いてきた中、激しい競争社会や発展がもたらした価値観の多様化が背景にあるようだが、中国メディアは今後の中国の経済成長を阻害しかねないとして警鐘を鳴らしているそうだ。
 この新聞記事(朝日)を読みながら、フッと30年前の日本の状況を思い出した。
 『若者・アパシーの時代~急増する無気力とその背景』(稲村博 著)という本がバブル経済真っ盛りの1989年に出版されている。
 アパシーとはドイツ語で、「外界からの刺激に無感覚になること」を意味する概念だそうで、1960年代の米国で生まれたという。つまり、経済的豊かさのみを追求する過程で、どこの国においても起こり得る現象だと言える。
 中国メディアでは、「“寝そべり族”は恥だ」と切り捨て、「“寝そべり族”は経済発展に不利だ」という論評を掲載しているという。
 中国政府によると、2013年に結婚を届け出た夫婦は1347万組いたが20年には813万組にまで減少。出生数の減少にも歯止めがかからず、20年の出生数は約1200万人でピーク時の半分以下だという。
 “寝そべり族”という社会現象の本質には、「教育のあり方」にあるのではないかと考える。
 経済的、物理的な成長を追求するあまり、専門的な知識や経験ばかりを重視する能力主義的な教育への偏重があった・・・。人間にとってもっと大切な、「何のために」という目的を思考する考え方、つまり価値観教育が欠如していた結果だと思う。
 これは、国に限ったことではない。企業においてもそうだと思う。成長と発展にはバランスが必要だ。ただ単に、売上や利益といった業績の向上・発展も成し遂げたとしても、人材のスキルアップ向上だけで、ものの考え方、価値観教育を置き去りにしていたのでは、“寝そべり族”が増えてきて、仕事の価値は損なわれてくるに違いない。
 コロナ騒動で不安的な環境にある今こそ、人間としての原点に立ち返って、正しい価値判断ができる人材教育に力を注ぐときであると考える。
                   ”考える言葉”シリーズ(21‐29