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考える言葉

 

オーバーラップ

 
2002年12月09日(月)

 “量から質へ転換”させることの意味を考えていたら、ある本のなかで、大変示唆に富んだ話に出逢ったので紹介したい。
 「最近、私どもでは、“人と人との関係を変えよう”ということに熱心に取り組んでいます。・・・・・個人がいくら努力してみても、毎年二割、三割とアウトプットを大きくすることは不可能です。それよりも、個と個との関係を深めていくような仕事の仕方をすべきではないかと思うのです。
 あるプロジェクトを共同で進める場合、ある個人一つの組織がもっている経験や仕事を通して得た勘、いままでに築きあげてきた人間関係から得られる情報など、パートナーに役立つものはいくらでもあります。
 これらをいくらでも出しあい個と個とがオーバーラップしている場をより大きくしていく。個と個とのあいだに成り立つ場が大きくなっていけば、そこから出るアウトプットは結果的にものすごく大きくなる。
 ここがおもしろいところなんですが、単に個と個との力を足し算したものよりもずっと大きくなるのです。そしてまた、こうした仕事を通して、個も結果としてより個性的になり、大きくなっていくということが起きる」(「競争から共創へ」清水博・前川正雄共著)。
 お互いの意識の中にある縄張りを取っ払ってみると、そこにオーバーラップしてくる“場”が生まれる。
 このお互いの意識が交じり合ってできる“場”こそに、新しい価値は生まれ、質の転換が起きるのだということを示唆している。
 つまり、お互いがお互いの領分を主張し、争うよりも、縄張りを解き放し自由に行き交う場を大きくしたほうが、アウトプットは大きくなるし、結果としてお互いがより個性的な成長ができるのだという。
 私たちは今、構造改革が進むなか、政官が大義名分のもと、いかに多くの縄張りを自分らの都合のいいようにつくりあげてきたかを目の当たりにしている。しかも、その縄張り意識が日本の財政を圧迫し、未来を危うくしていることは今や誰の目にも明らかなのに、恐ろしいことに捨てようとしない。
 しかしながら、その構図は政官に限らない。経済はもちろん、日本の社会構造のあらゆるところで生じている社会現象である。
 著者が示唆するがごとく、“人と人との関係を変える”こと、つまり、オーバーラップする“場”を大きくし、共有し合える目的を語り合うことから始めることが大切なのではないだろうか。